
理想を言えば、磐田はこの時期にJ2優勝や自動昇格を争う立場にいたかったはず。だが、“アクションフットボール”を掲げたジョン・ハッチンソン前監督のもとで、勝ち負けの波が大きく、特に下位相手に勝ち点を取りこぼす試合が多かった。そして無念の逆転負けを喫した第31節の大宮戦を最後に契約解除となり、U-18を率いていた安間貴義監督が、トップチームの指揮を引き継いだ。
初陣の甲府戦では1−0の勝利と手応えをつかんだが、続く徳島戦では0−4の惨敗。前節は最下位の愛媛に苦しみながらも3-1で勝利したが、内容面では多くの課題を残した。磐田はそれまでJ2ナンバー1のボール保持率を記録してきたが、安間監督はポゼッションにこだわらず、縦に速くゾーン4(ペナルティエリア前)へ直結する、積極的に背後を狙う意識を注入。甲府戦ではその形と再整備した守備が噛み合ったところもあるが、徳島戦では背後を狙いすぎて攻撃が単調化し、守備もワンツーや効果的なミドルパスで剥がされたところに外国人FWの決定力が合わさり、0-4の大敗を喫してしまった。
その結果もあってか、愛媛戦の前半は守備で自陣にブロックを作る意識が強くなりすぎてしまい、そこから中途半端に人に行く守備の裏をかかれる形で、何度も危ないシーンを招いた。攻撃は縦に急ぎすぎて相手ボールになる悪循環で、前半だけで4失点した徳島戦とはまた別の意味で、ワーストな内容だった。その流れがあまり変わらないまま、前半終わりにワンチャンスを決める形で、ブラウンノア賢信による移籍初ゴール。後半立ち上がりに同点ゴールを決められたが、磐田が我慢強く愛媛の強度が下がる流れを掴み、オウンゴールと川﨑一輝によるスーパーゴールで、結果的に3-1の勝利を飾った。
左サイドでスタメンだった佐藤凌我は「背後の意識が強くなりすぎて、つなぐべき場面でも蹴ってしまう」と課題を分析する。本職ストライカーである彼が、慣れない左サイドを担っているのも、右からのクロスにファーから飛び込んで得点する形をイメージしてのものと考えられるが、それがほとんど出せていなかった。後半は愛媛の疲れや倍井謙の右から左への配置転換を伴うメンバー交代がはまる形で3−1の勝利に結びついたが、佐藤が「作りの部分で違いを出せていない」と指摘するところを前半からどう構築していけるか。愛媛戦の後半で多大な存在感を見せたFWマテウス・ペイショットを累積警告で欠くだけに、なおさらロングボールに偏らない攻撃の構築はテーマとなる。
「安間さんも、その部分は間違いなく崩したくないと思います」と佐藤が強調するのは安間監督が、ハッチンソン前監督が構築してきたスタイルそのものを否定している訳ではないということ。ボランチの金子大樹によるとハーフタイムにも、中盤をもっと使って攻撃していこうと安間監督が伝えていたという。この段階までくると、本来チームのベースは変わることなく、新監督のプラスアルファが加われば理想だが、現実はそう甘くない。時に新指揮官のメッセージが強く響きすぎてしまい、せっかく構築してきた良さまで失われることもあるのだ。
「そこで安間さんの本意と違う部分が出てしまうと、ああいう展開になってしまう。安間さんが言っているのは、自分たちがボールを持った中でゾーン4を狙えるときは狙っていこうと。相手主導で“蹴らされる”サッカーは自分たちのサッカーではない」
佐藤の言葉は現在、本来チームがあるべきところからのズレが生じていることを裏付けるが、そこがアジャストされてくれば、これまで構築してきたベースを生かしながら、安間監督のプラスアルファが加えられる形に。その方向性は久藤清一コーチや前山口監督の志垣良監督による練習の指導にも表れており、長崎戦でどうアウトプットされるか楽しみなところでもある。チームの安定性は明らかに長崎が上回るが、磐田が揺り動きの強い3試合を経て、どういう着地点に結びついているかは勝負に大きく関わるポイントだ。
現在2位につける長崎は、高木琢也監督就任後、15戦無敗(チームとしては16試合)が続いている。前節の今治戦はエジガル・ジュニオのゴールで、幸先よく先制しながら終盤に追いつかれ、勝ち点3を逃した。長崎もシーズン途中で、下平隆宏前監督から高木琢也監督に交代しており、長崎が1−0で勝利した前回対戦はそのまま参考になりにくい。ただ、当時から変わらないこととしてはマテウス・ジェズスを筆頭とする長崎の個の力を磐田がどう止めて、自分たちの流れに持っていけるか。また、それでも危険になる要所で、エジガルやジェズスなど、強力なアタッカーにゴールを割らせないかが鍵になる。
長崎が勝てば自動昇格をさらに近づけ、負ければ残り3試合がかなり苦しくなってくる。長崎としては最低、引き分けでも自動昇格に近づくが、再び流れを上向けるためにも、是が非でも勝ち点3を持って帰りたいだろう。磐田はここで勝っても、その時点で順位が大きく変わることはないが、残り3試合に勢いをもたらす勝利になる。昇格プレーオフの2試合を戦う想定でも、新体制で自信を取り戻す意味でも大きい。
昇格争い全体を見ると第35節を迎え、J2は“魔境”と呼ばれるに相応しい混戦となっている。ただし、2位までに与えられる自動昇格は首位の水戸、2位の長崎がかなり優勢で、3位の千葉以下のチームは目の前の試合で勝ち点3を積み上げて、残り3試合に逆転昇格の希望を残したい。
首位の水戸はアウェーでヴァンフォーレ甲府と対戦する。エース渡邉新太は怪我で離脱してしまったが、前節はU-20W杯から帰ってきた齋藤俊輔が見事なゴールで札幌を打ち砕き、再び首位に立っている。甲府としても意地を見せられるか。7位のサガン鳥栖と5位の徳島による対戦も、磐田vs長崎に匹敵する大一番だ。鳥栖は前節、ベガルタ仙台にアウェーで2-0とリードした展開で、しかも相手が退場で10人になった状況から3点を奪われる大逆転負けを喫した。もしホームで徳島に勝ちきれないと、ズルズル下がってしまう可能性がある。
徳島もアウェー磐田戦の4-0勝利が嘘のような低パフォーマンスで、ホームでいわきに0-1の痛い敗戦を喫した。磐田戦の負傷により、攻守の要である永木亮太を欠くと見られる中で、鳥栖戦の結果がどう出るかで、大きく変わりうる。その鳥栖を相手に逆境から大逆転勝利を演じた仙台も、次の相手は難敵の今治だ。その後もロアッソ熊本、ブラウヴリッツ秋田、いわきと、シーズン何度も上位に勝利している“曲者”ばかり。まずは今治に勝利して、勢いを乗せられるかどうか。水戸、長崎の結果によっては自動昇格の可能性も出てくる。
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