
ドイツ国内で町野のクオリティーに太鼓判が押された試合は、第31節ボルシアMGとの一戦だろう。残留への望みをつなぐために勝利が不可欠な状況で、町野は決勝点を含む2ゴールと殊勲の働き。4-3と勝利した試合の途中、足をつりながらも懸命に走り続け、試合終了後にはその場に倒れ込む姿が見られたが、表情には充実感が滲んでいた。
試合終了から1時間半後、スタジアムを後にする町野に対して、残っていた多くのファンが大きな声援と拍手を送る。勝利の立役者を祝い、最大限の敬意を示すシーンが非常に印象的だった。
ラップ監督も「シュウトはどんな時でもたくさん走ることができるし、歯を食いしばって戦える選手。シュウトを交代させようとは思わなかった」と全幅の信頼を寄せていた。
町野にとって苦労の時期は長く続いた。2023-24シーズンの2部リーグでは5ゴールにとどまり、最終節ハノーファー戦後には「試合にたくさん出させてもらったので、ボール扱いのところは余裕が出てきました。ただ結果が5ゴールで終わっている。こだわってやっていかないと」と、危機感を露わにしていたのを思い出す。
今季も序盤5試合を終えて4ゴールをマークしたものの、その後3か月近くゴールから遠ざかる苦しい時期を経験した。「不安もあった」と振り返るスランプをどのように脱出したのか。前述のボルシアMG戦後、町野はその過程を次のように語った。
「もう一度、イチから練習で取るしかないなって。取り続けて、信頼を勝ち取っていくしかないなって。前日に同じようなコーナーキックからのゴールが続いたんです。4本練習して3点取ったんです。感覚的にも非常にいいものがあったので、チームのために取れたなという思いでいっぱいです」
守備でも町野は豊富な運動量を誇り、チーム戦術に沿って秩序あるプレスを粘り強く繰り返す。ボール保持時にはサイドに開いてパスを引き出し、前線ではロングボールを懐に収める役割やヘディングで味方につなぐ動きなど、多彩なタスクをこなしている。そのなかで、自身の役割やプレーの出し方をどう捉えているのか。
「役割としては(中盤に)降りてゲームを作って、そこから前に出るというのが多い。最近、もう少し前気味にプレーしていいということになってから、チャンスもそこそこ来るようになりましたし、チャンスが来た時にしっかり仕留められる準備をしていました。もう、それだけですね」
この言葉も、昨季2部リーグ最終節ハノーファー戦後に町野が語ったコメントの1つだ。様々な経験を積み重ねた末、今季はブンデスリーガ1部でも堂々としたプレーを披露し、念願の二桁得点を達成した。
「もう、めちゃくちゃ意識してました。本当に嬉しいですね。やっぱり二桁(得点)っていうために日々頑張ってきました。でも、ここがゴールじゃない。まだまだ取れると思います。簡単じゃない試合が毎試合続く。もっと成長しないと置いていかれますし、試合にも出られなくなる。10点は目標でしたけど、ここで満足せずやっていきたいです」
前半戦でチーム最多の6ゴールを挙げた町野だったが、後半戦ではスタメンから外れる試合もあった。もちろんゴールは重要だが、チーム内で彼に求められている役割はそれだけではない。
ドイツ1部ではクラブ間の戦力差が顕著だ。キールの年間予算は4600万ユーロ(約75億円)とリーグ最下位。予算トップのバイエルン・ミュンヘンは8億6500万ユーロ(約1413億円)と、実に19倍近い差がある。さらに、同14位のウニオン・ベルリンでさえ1億1300万ユーロ(約184億円)と、キールの約2.5倍に達する。
そうした厳しい条件下で戦った今季、キールは最終的に2部降格が決まったものの、最終節まで残留の可能性を残す健闘を見せた。その価値は非常に大きく、ファンからも惜しみない拍手が送られた。
第32節アウクスブルク戦では、町野が有言実行となるシーズン11点目をマーク。その試合で負傷交代となり、キールファンの間で不安が広がったが、それでも最後まで懸命に戦い抜いた姿が印象的だった。
勝てない試合が続く残留争いのなかでは、メンタル面で追い込まれる選手も少なくない。しかし、町野はそんな厳しい状況でも常に前を向き続けていた。
「基本的にネガティブなことは言わないというのはあります。(どんな時でも)ポジティブに物事を捉えていくのは大事だと思います」
数々の困難を乗り越え、苦難を克服してきた経験は、今後のキャリアにとって大きな財産となるに違いない。町野のさらなるステップアップに期待したい。
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