湘南ベルマーレの守護神、35歳の上福元直人が最も多くの枠内シュートを浴びながら、2番目に多い枠内シュートセーブを記録するゴールキーパーとして異色の存在感を放っている。14年目を迎えているプロのキャリアで7度の移籍を経験し、湘南が延べ8つ目の所属チームとなるベテランの生き様を追った。(取材・文=藤江直人)
 Jリーグが公式ホームページ上で発表している選手個人のスタッツで、直近の第14節を終えた段階で「被枠内シュート総数」でトップに立ち、同時に「セーブ総数」の2位につけるゴールキーパー(GK)がいる。
 ゴールの枠内に飛ばされたシュート数60が最多を数え、枠内シュートを防いだプレー総数41では早川友基(鹿島アントラーズ)に1差の2位につける35歳のベテラン、上福元は言う。
「もちろん(枠内シュートとセーブが)ないに越したことはないですけど、やはりどこかで漏れる部分が出てきてしまうので、そこは最後のところで自分が止めなきゃいけない仕事だと思っています」
 4月29日の第13節を終えた段階では、「セーブ総数」でも早川と並ぶ1位だった。敵地で0-4と大敗した5月3日の第14節で数字が変わったが、それでも現時点のJ1で1試合を通じて最も忙しいGKといっていい。
 上福元は昨年8月1日に、川崎フロンターレから完全移籍で湘南に加入した。2023シーズンから所属した川崎では、約1年半の間に公式戦27試合に出場。そのうちリーグ戦が20試合を占めていたように、2016シーズンから川崎の守護神を担ってきた、元韓国代表のチョン・ソンリョンとポジション争いを繰り広げていた。
 それでもオファーを受けた湘南への移籍を即決した理由を、上福元はこう語っている。
「湘南の取り組み、というものに対して自分が興味をもっていたというか、魅力を感じていたのが大きかった。自分が入ってプレーできれば、よりいいものを表現できるんじゃないか、という確信があった。実際に飛び込んでみてまったく違和感がなかったし、もっともっとよくしていきたい、という欲も出てきています」
 千葉県の市立船橋高校から順天堂大学をへて、2012シーズンにJ2の大分トリニータでスタートさせ、14年目を迎えているプロのキャリアで上福元は7度の移籍を経験。湘南が延べ8つ目の所属チームとなる。
 2シーズン目の2013年5月に、当時JFLを戦っていたFC町田ゼルビアへ期限付き移籍。出場機会を求めた末の決断だったが、町田でもゴールマウスに立てないまま、2か月後には大分へ復帰した。
 プロデビューは4年目の2015シーズン。V・ファーレン長崎とのJ2第24節で、先発予定の武田洋平(現・名古屋グランパス)の怪我で急きょ出場して大分を勝利に導くと、その後も7試合に出場した。
 大分で2016シーズンはJ3で19試合、2017シーズンにはJ2で38試合に出場すると、2018シーズンからは当時J2の東京ヴェルディへ完全移籍。リーグ戦全42試合でフルタイム出場を果たしただけでなく、J1参入プレーオフでも3試合にフル出場。2019シーズンもJ2リーグ戦全42試合で再びフルタイム出場した。
 2020シーズンからは徳島ヴォルティスへ完全移籍。リカルド・ロドリゲス監督(現・柏レイソル監督)のもとで守護神としてJ2優勝とJ1昇格に貢献し、翌2021シーズンには念願のJ1デビューを果たした。
 さらに2022シーズンからは、J1へ昇格した京都サンガF.C.へ完全移籍。リーグ戦に加えてロアッソ熊本とのJ1参入プレーオフ決定戦でもゴールマウスを守り、京都のJ1残留に貢献したオフに川崎へ完全移籍した。
 湘南を含めて、延べ8つのチームに所属してきた異色のキャリアを上福元はこう振り返る。
「自分が移籍する意味を、しっかりと理解して進んできたつもりです。すべてのチームでの積み重ねが自分の財産として残っていて、試合で表現できる部分、自分の引き出しの部分につながっている。すべてのトライがポジティブなものだったし、いままで自分が所属してきたすべてのチームに心から感謝しています」
 自らの成長に合わせながら、各々のチームでプロの世界で生き抜くスキルを身につけてきた。大分と町田ではカテゴリーにかかわらず試合出場を目指し、東京Vと徳島ではレギュラーを担いながらJ1へ挑んだ。京都ではJ1でプレーし続ける軌跡を追い求めた上福元は、川崎の一員になった際にはこんなコメントを残している。
「ここでタイトルを取り、日本一になります。(中略)勝つための準備、財産を持ってここに来ました」
 ならば、ある意味で集大成と位置づけていた川崎での挑戦を一転させ、湘南に新天地を求めさせた「魅力」とは何なのか。答えの一端が敵地で町田と対峙した、4月25日の第12節から垣間見える。
 キックオフを控えて、同じ1989年生まれのDF大野和成から、上福元はこんな言葉を伝えられている。
「ラインを高く上げるから、裏のスペースのカバーを頼む」
 広いエリアをカバーできる機動力の高さと、足元の卓越した技術を駆使したビルドアップ能力は、35歳になった上福元のストロングポイントになっていた。だからこそGKを11番目のフィールドプレーヤーにすえて、ボールポゼッション率を高めていく青写真を描いていた湘南の一助になりたいと思った。
 もちろん、最終ラインを高く保てばリスクも高まる。町田戦では前半だけで6度もの決定的を作られたが、そのうち4度で上福元がビッグセーブを披露。失点を許さなかった湘南は後半アディショナルタイム3分に、途中出場していたMF池田昌生のゴールで連敗を2で止める1-0の勝利をもぎ取った。スコアレスドローだった福岡戦でも前半14分に、MF見木友哉にフリーで、かつ至近距離から放たれた一撃を止めている。
 機動力とビルドアップ能力に加えて、シュートストップにも磨きをかけてきた上福元が言う。
「きっちりと抑えるべきところを抑えながら、しっかりと信頼をつかんでいきたいと思ってきました」
 福岡戦で見木のシュートを防いだシーンも然り。試合はスコアレスドローに終わったが、湘南は今シーズン初の2試合連続のクリーンシートを達成した。積極的に前へ出る守備を標榜する。万が一の事態でも、上福元が最後の砦と化す。こうした繰り返しが、Jリーグが発表する冒頭の個人スタッツにつながっている。
 今シーズンに入って、ようやくJ1通算100試合出場を達成した。周囲から見れば遅咲きかもしれないが、上福元のなかでは自身が思い描いた通りのキャリアを、遠回りをしながらでも歩んできた証となる。
「J1での経験もまだまだ少ないし、これからも1試合1試合、いいものを積み上げて、次によりいいパフォーマンスを出せるように準備していく。本当にその繰り返しだと思っています」
 大野、DF大岩一貫、3月下旬にセレッソ大阪から加入したMF奧埜博亮とともに、1989年生まれで35歳のチーム最年長となる上福元は「ベテランらしく、というよりも、湘南のために勝利から逆算して自分にできる部分に、もっともっと向き合っていきたい」と前だけを見すえる。その意味でも大敗したガンバ戦も、成長へ向けた糧に変える。フィールドプレーヤーたちと育む信頼関係を力に変えながら、現状維持は衰退をモットーとすえてきた守護神が、湘南のゴールマウスで放つ存在感が試合ごとに大きくなっていく。


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