ドイツ1部ブンデスリーガの魅力はなんだろう? 今シーズンは競っているものの、例年は早い段階でバイエルン・ミュンヘンの優勝が確定し、スリリングとは程遠い展開になるのは否めない。だが、スタジアムはいつもほぼすべての試合で満員だ。ドイツのサッカーファンは、どこにブンデスリーガの魅力を感じているのか。ドイツ1部ケルンで働く日本人フロントスタッフ・笹原丈とのインタビュー企画第3弾では、そんなブンデスリーガの魅力に迫ってみた。(取材・文=中野吉之伴/全3回の3回目)
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「いい質問ですね。僕もドイツと日本にしか住んだことがないので、ほかのヨーロッパのリーグとは比べられない部分があるんですけど、やっぱり『クラブが街に根付いてる』っていうのはすごくありますよね。もちろんイングランドとかでもあると思いますが、本当に試合当日のケルンは普段サッカーを見ない人でも、『お、今日は試合があるんだな』って興味を示すのが分かる。もうそれはどこのクラブもそうだと思います。
 試合の日はいろんなカフェやレストランで試合を放送してますし、本当に熱狂的なファンが多い。そうやってクラブが街に根付いているというのは本当に魅力ですね。熱狂的なファンも多い。それこそ休みに入っちゃったら、町は静かになってしまいますし、個人的にも何か毎日にもの足りなさを感じてしまいます」
 サッカーファンはクラブ愛を継承していく。ドイツでは親が子供を連れて、おじいちゃんが孫を連れてサッカースタジアムに集まってくるという光景が広がっている。子供がぶかぶかのユニフォームを着て、スタジアムでソーセージを食べて、劇場のようにファンみんなで作り出す雰囲気に圧倒されて、魅了されて、「また行こうね」と約束しながら帰路につく。そんな毎日がそこにはある。
 ビジネスの世界でも、「週末の試合で」「この前の試合でケルンが」というのが枕詞として話が進むことはよくある。企業同士の打ち合わせの場でも、時節の挨拶のようにサッカーの話がされるし、それこそブンデスリーガのビジネスシートではさまざまな商談がまとまる場として非常に重要な役割を果たしているのだ。
 世間的にブンデスリーガの「堅実な経営」というのは、ひょっとしたら「面白みに欠ける」というふうにも見えるのかもしれない。インターナショナルで、例えばイングランドのプレミアリーグ、スペインのラ・リーガ2強(レアル・マドリード、FCバルセロナ)と比べたら、そこで動いているお金や世界的スター選手の数は及ばない。でも、ドイツのサッカーファンがそれを求めているかというと、そうではないのだろう。
 勇敢と無謀は違う。スポンサーとの確かな結び付きから、首脳陣がどんな思いでクラブを大切に運営していこうとしているのか感じることもできる。ファンにとっては身の丈に合った運営で、確かなホーム意識を持ったまま、みんなで熱狂できるというところが何よりの魅力なのだ。クラブが自分たちの手の届かないところに行かれるのは、どうしたって嫌なものなのだ。
「今このクラブを国際的にするという仕事をしているわけなんですけど、まさにそれとぶつかってしまうことがあるんです。ケルンは特に地元ファンがものすごく多くて、それで成り立ってるようなクラブ。例えばどこか外資が買収しますみたいな話になった時に、もう絶対ファンは付いてこないと思うんです。国際的にも成長したいけど、地元ファンを置いていってもいけないというのが自分の仕事なので、そのあんばいの難しさは常に感じています」
「ケルンでどんなの仕事をしてるの?」と聞かれた時、ニュアンスに気をつけて伝えないとファンの人たちに嫌な顔をされたりする時さえあるという。イノベーションを狙ったり、新しいものを探りながら、それでもトラディショナルなところは残さなければいけない。
「地元の伝統的なファンを失うっていうのは絶対にあってはいけないこと。それがクラブにとって一番の宝物なんですから」
 クラブのアイデンティティーを大切にしながらも次代の流れに応じて国際化していくのは、極めて困難なチャレンジであることは分かっている。でもこのチャレンジには間違いない意義がある。だからそれをなしえることができた時のことを考えるだけで、むしろ力が湧いてくると笹原は言う。
「本当に楽しいですね。将来のことを考えたりすると、ワクワクしますよね。もちろん結果がすべてなので、プレッシャーはありますし、本当にきついなと思うこともあります。でも、やりがいはめちゃくちゃありますよ」
 世界の舞台で戦う日本人がここにもいる。海外組は選手や指導者だけではないのだ。


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