昨年8月、サガン鳥栖でJリーグクラブでは初となる新型コロナウイルスによるクラスターが発生した。緊急事態宣言が全国に発出され、Jリーグが再開してから約1カ月後のことだった。Jリーグでは再開後から2週間に一度のPCR検査を選手やチームスタッフに義務付けていたが、その検査でクラブでは次々と陽性反応が出た。
 そのなかに日本代表でのプレー経験もあるMF高橋秀人がいた。今シーズンから横浜FCに移籍した高橋は、日本プロサッカー選手会会長として、感染対策を率先して行っていた人物だ。「そんな僕がコロナに感染してしまったのであれば、それは社会やいろいろな人に伝える使命があるのかな」と取材に応じてくれた。
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「少し前に新聞の取材を受けたのも、最近になってコロナ後遺症で苦しんでいる方々の報道が出るようになってきて、少しずつ社会も変わってきているのかなと感じたからです。僕と同じ思いはしてほしくないですし、少しでも僕の体験が参考になるのであれば、僕の症状を聞いて、しっかりと『正しく恐れる』ことをしてほしいというメッセージを伝えたいと思ったんです」
 いつもと変わらずに受けたPCR検査の結果が出たのが8月12日だった。お昼頃にチームのトレーナーから「陽性反応が出たから自宅の部屋に籠って、家族との接触を断って隔離してください」と電話があった時は、自覚症状が全くなかったものの、その日の夜に39.4度にまで熱が上がる。
「毎日、体温計をおでこに当てて測るのですが、いつもなら『ピッ』って音で、はい36.4度って感じなのに、その日は『ピピピピピピ』って鳴って。故障したのかなと思って10回ぐらい測ったんですが、やはり39.4度だったんです。それで、『ああ、これがコロナか……』と覚悟しました」
 それでも思い返してみれば、思い当たる症状がなくはなかった。8月8日の鹿島アントラーズ戦では、「終わった後に熱中症のような症状でだるさというか、倦怠感というか、ちょっと力が抜けるような感覚があった」という。トレーナーやコーチングスタッフに「ちょっと熱中症っぽい感じがするけど、これってコロナじゃないよね?」と冗談めいていたが、その予感は的中してしまった。
 陽性反応の結果が知らされてから3日間、高熱は続いた。インフルエンザなどで高熱を出すことは過去にもあったが、今回は少し様子が違った。高熱のつらさに加えて「少し怖さみたいなものがあった」という。
「力士の方や著名人が亡くなったのを報道で見ていたし、感染経路も分からない状況で。僕は選手会長を務めさせてもらっていて、コロナ対策をJリーグと一緒に作っているなかで率先して活動を行っていた。なのに、僕自身はしっかりと感染対策をしていたにもかかわらず、コロナに感染してしまった……。何か悪いことをしたわけでもないのに、今までの生活とかを振り返って何がダメだったんだろうって自責の念にかられてしまって。この先どうなるんだろうという不安と焦りで、いっぱいいっぱいになってしまった」
 “怖さ”には、死への恐怖もあった。
「仮に自分が死んでしまったらどうしようと。だから家族のことを思って、自分が入っている生命保険会社に電話をしました。もし、自分に何かあったら、奥さんと子供に保険金が入るように伝えたんです」
 クラブでは陽性反応が出たことを第三者に口外しないよう決められていたが、この時ばかりは「さすがに言ってしまった」と明かした。


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