「ナイスシュート、ありがとう! 泣いちゃったよ、ほんとに」
 Jリーグ史に残る壮絶な逆転劇の翌週最初の練習日、湘南ベルマーレのトレーニング場では複数のファンが山根視来に声をかけ、サインをねだっていた。練習場からクラブハウスへ戻る途中の階段には、この英雄が表紙を飾るサッカー専門紙が置かれていた。
「自分がこれの表紙に載る日が来るなんて、思ってもみませんでしたよ」と山根ははにかんだ。
 5月17日の敵地でのJ1第12節、湘南は浦和レッズに2-3の逆転勝利を収めた。2点を先行された後、サイドネットを内側から揺らした杉岡大暉のゴールは認められなかったが、彼らはその誤審を力に変え、後半に3点を返して逆転。試合終了直前に、極めて高い価値のある決勝点を奪ったのが、25歳のDF山根だった。
3バックの右がなぜ敵陣中央に? 表示された追加タイム3分を回る頃、ファブリシオのミドルをGK秋元陽太が掴み、中盤の右にいた山崎凌吾へフィードを送る。高いボールを的確に収めた長身FWは、センターサークルにいた山根へパス。
 すると背番号13は、前方の松田天馬が左に流れて空けたスペースにドリブルで持ち込み、ボックスに入ったところで右足を振り抜いた。
 不条理な判定への悔しさや怒り、あるいは信じ続けること――。チームメイト、スタッフ、サポーターら、すべての人々の想いを乗せたボールは、相手DFに当たって縦回転を生み、GK西川周作の上を抜けてゴールに吸い込まれていった。その瞬間、彼らの感情は爆発し、冒頭のファンのように涙を流す人の姿もあった。
 それにしてもなぜあの時、ライトバック――普段は3バックの右だ――が敵陣の中央にいたのだろうか。


※海外サッカーのランキングをチェック♪

掲載元:Jリーグ - Number Web
URL:https://number.bunshun.jp/articles/-/839434