その人柄を一言で表わすなら、「誠実」という言葉がしっくりくる。
 
 1月31日、さいたま市浦和区のホテルで開かれた浦和レッズ・淵田敬三前代表の退任会見。20分の会見は5年におよぶ激務をねぎらう記者の拍手とともにしめられた。
 
 終了後、淵田氏は細い目をより細めながら、「2月は忙しいんだよ。3日に1度、飲み会だから」と手帳をめくった。聞けば、その多くがサポーター主催の慰労会というから驚く。14年2月の就任当時、ここまでサポーターと近しい関係になれるとは、思わなかっただろう。この5年間はサポーターと信頼関係を築いた時間と言っていい。
 
 そのキッカケとなったのは2014年3月8日。リーグ第2節ホーム開幕戦・サガン鳥栖戦で起きた「差別横断幕事件」だ。
 
「ひたすら謝り続ける毎日だった。でも、その分、度胸がついた」と淵田氏。当時、練習場や試合会場にはメディアが殺到。クラブには連日、抗議の電話がかかったという。おまけにある国会議員から「説明責任を果たせ」と国会への出頭命令が出たそうだ。
 
 図らずも渦中の人となった淵田氏が「最もキツかった」と振り返るのが事件から11日後の3月19日 ナビスコカップ・グループステージ開幕のアウェー・柏レイソル戦だった。
「本当にいろいろ言われた。罵詈雑言に近いものもあった。でも、それ以上に、こちらが声をかけても、握手を求めても何も反応してくれなかったことが何より辛かった」とサポーターと深い溝を感じた。
 
 チーム愛の深い浦和サポーターから見れば、就任間もない淵田氏はいわば“よそ者”。加えて前代未聞の無観客試合の決定にクラブへの失望感が広まった。
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 この時、淵田氏は腹をくくった。サポーターと信頼関係を築くべく、ホーム・アウェーにかかわらず、キックオフの数時間前からスタジアムを何度もまわり、サポーターとの対話を根気よく重ねた。これはひとつ前の代表、橋本光夫氏の踏襲だが、より精力的に行った。
 
 まずは挨拶から始まった。すると少しずつ挨拶が返ってくるようになった。サポーターから話しかけられるようになるのに1年以上かかった。「我慢比べだった」と淵田氏。時間をかけ、続けるうちに少しずつ顔見知りのサポーターが増え、直接、意見を聞けるようになった。こうした声をクラブ運営にも生かした。これが功を奏し、いつしかサポーターのオフ会に誘われ、クラブスタッフを伴い、出席するようになった。淵田氏の粘り勝ちだ。
 

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掲載元:サッカーダイジェストWeb
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