ピッチの外でもアシストはできる。
 12月8日、J1参入プレーオフ決定戦の3時間前。ジュビロ磐田は大久保のクラブハウスに集まり、決戦の場となるヤマハスタジアムに向かう準備を整えていた。
 控えに回った中村俊輔が動いた。名波浩監督から許可をとりつけて、急いで選手を呼び寄せたのだ。緊急の選手ミーティングが開かれた。
 中村はこう切り出したという。
「今のままじゃ勝てないと思う」
 突き刺さるようなみんなの視線を受けてから、ちょっと表情を緩めたそうだ。
「それはウソ」
 安堵の視線に逆らうように、今度は表情を引き締める。
「今“何だよ俊輔”ってむかついた人は大丈夫。でもむかつかなかった人は、ここからの時間で気持ちを整理したほうがいい」
 言葉は続く。
「俺たちはプロ。始まりの笛がなったら気持ちのスイッチは入るし、アドレナリンは出るし、戦える。それは分かっている。でもちょっとでも不安があったら、ダメになってしまうことがある。試合まで時間はある。自分のなかにある不安を整理して試合を迎えよう」
チームを静かに導いた俊輔の表現。 不安を整理する――。
 勝とう! チームのために! 応援してくれる人のために!
 モチベーションを一気に引き上げていくような、そういった言葉は一切なかった。試合までの時間をどう使っていくべきかを、彼なりの表現で静かに伝えた。
「不安を消せ」だと、余計なパワーを使ってしまう。スタジアムまでに移動するバスのなかで、静かに己と向き合い、理解して納得して「整理させる」。
 簡単に言えば“俺は気持ちの準備はできている。みんなはどうだ?”との問い掛け。まだなら、今からやればいい、それだけのこと。


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掲載元:Jリーグ - Number Web
URL:https://number.bunshun.jp/articles/-/832939