清々しいという表現は、この日、この時、この男のため、にあるようなものだろう。
 11月14日、川口能活の現役引退会見が行われた。所属するSC相模原の呼びかけに応えて、東京はもちろん出身地の静岡のメディアなど63社の130人が会見場を埋め尽くした。
 およそ1時間の会見で、川口は「いまは感謝の気持ちしかありません」と何度も繰り返した。日本サッカーの最前線で戦い続けてきた男は、サッカー選手としての闘志を収束するタイミングを自ら見つけたのである。気持ちは澄み切っていた。
 1994年の横浜マリノス入団から、国内外の6つのクラブを渡り歩いて25年である。日本代表での国際Aマッチ出場数は歴代3位タイにしてGK最多の116試合を記録し、ワールドカップ出場は4度を数える。
 ワールドカップ本大会だけでなく、ワールドカップ予選やアジアカップ、さらには'96年のアトランタ五輪などでも活躍してきた。「川口能活」という名前とともに日本サッカーの歴史に刻印された試合は、両手でも全く足りないぐらいだ。
 かくも濃厚なキャリアに、今シーズン限りで幕を降ろすのだ。簡単な決断でも、瞬間的な決心でもなかったはずである。
燃え尽きるという選択肢は選ばなかった。 川口も記者会見で率直な思いを明かした。
「実はここ1、2年くらいはプレーを続けるか、あるいは引退するかの狭間で揺れていました。サッカーは大好きですし、続けたい。でも、試合に出られないときもありましたし、そのなかで辞めるか続けるかのところで揺れていた」
 フィジカルコンディションに問題を抱えていたわけではない。SC相模原に加入した'16年と翌'17年は、コンディションが整わずにシーズン開幕から出遅れた。しかし今シーズンは、FC岐阜に在籍した'15年以来の開幕スタメンをつかんでいる。
 リーグ戦出場は5試合にとどまるが、ここまで消化した29試合のうちベンチから外れたのは6試合しかない。臨戦態勢は整っていた。
 彼自身、「余力はあります」と話している。プロ入りからコンディションを第一に考え、食事や休養などに細心の注意を払ってきた。キャリアを長く続けるための“貯金”は、まだまだ尽きていない。トレーニング中の動きは、43歳となった現在もしなやかである。
「ボロボロになるまで、燃え尽きるまでやることも、考えなかったわけではないですが……」と川口も話す。ならばなぜ、引退へ気持ちが傾いたのか。


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掲載元:サッカー日本代表 - Number Web
URL:https://number.bunshun.jp/articles/-/832533