「人は皆、同じ量の運を持って生まれてくる。その運を使いながら人は生き、そして使い切って死んでいく」
 立川志の輔が演じる落語「死神」の一節だ。
 借金で首が回らなくなった主人公のもとに現われた死神は、こう続けるのだ。
「お前にはまだ運が残っている。人は運を残したまま死なないものだ。なぜって? 俺たち死神はそれが大嫌いだからさ」
 だとすれば、フレン・ロペテギはすべての運を使い果たし、そしてあっけなく死神に連れ去られてしまったのだろうか──。
 10月28日のラ・リーガ第10節、宿敵バルセロナとのエル・クラシコで1-5の大敗を喫した翌日、レアル・マドリーのロペテギ監督が解任された。
 ロシアW杯の開幕2日前にスペイン代表監督の座を追われてから、まだ4カ月ほどだ。この短期間での2度の解任劇はイメージ的にも最悪で、指導者としてのキャリアに深い傷を残してしまった。
レアルの監督になる幸運と引き換えに。 彼が大きく人生の運を使ったのは、マドリーの監督という特別なステータスを手に入れた時だろう。チャンピオンズリーグ(CL)3連覇の偉業を成し遂げたジネディーヌ・ジダン監督の突然の辞任を受け、その後任として白羽の矢が立ったのだ。
 もちろん、世代交代を進めながらスペイン代表をW杯出場に導いた手腕が高く評価されたのだろうが、しかしクラブレベルでの実績に乏しいロペテギが、果たしてフロレンティーノ・ペレス会長の本命だったかと言えば、そうではない。
 ジダンの辞任に焦り、新シーズンに向けて体制固めを急ぎたかったペレス会長が、リバプールのユルゲン・クロップなど大物監督に振られ続けた挙句、さほどアクが強くなく、意のままに操れそうなロペテギを手っ取り早く後任に据えたとの見方は、あながち的外れではないと思う。
 こうして“外れ1位”とはいえマドリーの監督に抜擢された幸運と引き換えにロペテギが背負ったのは、スペイン代表をW杯の直前に見捨てた裏切り者としてのレッテルと、世界最高峰のメガクラブを率いる巨大なプレッシャーだった。


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掲載元:海外サッカー - Number Web
URL:https://number.bunshun.jp/articles/-/832366